泣き濡れる愛の草

 標準和名、シナダレスズメガヤ
学名、Eragrostis curvura
英名、weeping lovegrass
 というこの草は、ボクには思い出深い植物だ。
 高校2年生の秋、修学旅行で関西方面に行った。名古屋まで新幹線で、その先はM交通の観光バスでの旅になった。ボクたちのクラスは、端整な顔立ちの美人のガイドさんがついてくれて、男子ばかりの集団は大喜びだった。それでもボクは晩生だったから、最初はあまり気にも止めていなかった。
 はっきり場所は覚えていないが、とある切り通しが続く真新しい道を走行中、特に名所も何もないと見えて、美人ガイドさんが唐突にボクたちに質問を投げかけてきた。
「皆さんは農業高校の生徒さんと言うことですが、今、この道の脇に生えている草は何だか分かりますか?」
と言う。そう、ボクらは農業高校の生徒だったのだ。
 しばらく静寂が流れて、誰も答えようとしないので、知らないと言われるのも不名誉なのでボクが答えた。偶然ボクは牧草に興味があったので、一応の知識は身につけていた。
「ウィーピングラブグラスです。」
と答えると、ガイドさんは
「さすがですね、農業高校ですものね。」
と、言う。バスの中のクラスのみんなはほっとした表情を見せていた。
 続けて、
「では、この草の名前の意味は分かりますか?」
ときた。牧草の研究に意味までは求めなかったので、素直に分からないことを告げる。
 するとガイドさんは次のような話を始めた。
 
 この草は、新しい道路を造るときに植えられて、丈夫なのときれいなので近頃盛んに利用されています。 斜面に植えると、長い葉が垂れ下がって地面を覆うので、適しているのでしょう。
 でも私は、この草の名前が好きなんです。 ウィーピングラブグラスは、英語で“泣き濡れる愛の草”っていう意味なんですよ。ロマンチックでしょう?垂れ下がった葉に雨粒や朝露が宿ると、乙女が泣いている姿に見えませんか?

 という話しを聞かされると、晩生のボクでも瞬時に恋心に目覚めてしまったのだった。オトナの女性の、顔立ちや“美人”の枠を飛び越えて、魅力を知ることになってしまった。
 修学旅行が終わってしまえば、もうそれきり逢うこともなく、長い年月が過ぎ去っても、あのE子さんのふと見せる寂しげな顔とウィーピングラブグラスだけは忘れないでいる。

 近年、この草は土砂流出防止に使われることはなくなったが、河川敷や道路脇にはびこって、強力雑草として防除の対象になっている。牧草としても、家畜の嗜好性がよろしくなくて、利用されなくなった。今や厄介者となってしまったこの草に全く罪はないのだが・・・・・・。

①川の縁に生えている様子。
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②川風にそよいでいる。
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③河原には夥しい数が生えている。
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④農業用用水路にしなだれている。
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⑤完熟前の穂。この種子がこぼれて殖える。
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⑥対岸の河川敷の様子。木々の間を埋め尽くしている。
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Commented by nenemu8921 at 2013-06-25 23:01
まあ、なんてロマンチックなお話でしょう。
《泣き濡れる愛の草》とは、過激な訳ですね(^_-)-☆
感じやすい少年期に、心に残る出来事でしたね。
植物にまつわる話というのは、その植物に出会うたびに思い出しますね。
シナダレスズメガヤという標準和名は知りませんでした。
イネ科の植物は識別が難しいですね。



Commented by h6928 at 2013-06-26 18:07
nenemuさん こんばんは。
感じやすい少年期の思い出話にすてきなコメントを
ありがとうございます(^_^)v
雨が降って本当に泣き濡れている写真があれば良かったかな?
なんて・・・今日の雨を恨めしく思います。
標準和名は、牧野富太郎先生の命名だと記憶しています。
イネ科は在来種と外来種が入り交じって、ホントに大変ですよね。
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by h6928 | 2013-06-25 20:49 | Comments(2)